大井研究室 Message

3年生へのメッセージ

有機反応化学研究室は2006年5月1日に産声を上げ、今春には十周年の節目を迎えます。これまで一貫して、有機イオン対の精密な分子設計と構造制御を武器に有機分子触媒化学の新たなストリームの創出を目指し、スタッフ・学生が一丸となって研究を進めてきました。2013年の4月からはトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)が発足し、私達もその一員として分子の力を信じ、化学と生物学の境界領域での新しい融合研究に挑戦しています。それぞれの学生が表現する、自分達のオリジナルな分子の振る舞いと反応への愛情とこだわりが、研究自体はもちろん研究室全体の色を生み出す大きな原動力となっているように思います。今年は、私の他に浦口准教授、大松特任准教授、荒巻助教、博士研究員2名と技術補佐員1名、博士課程の3年生3名、2年生3名、1年生3名、修士課程の2年生6名、1年生5名の27名に、皆さん達新学部4年生を迎えて、益々活気溢れるグループに成長していければと思います。

講座配属を間近に控えた皆さんの多くが、程度の差こそあれ研究者を志していることと思いますが、研究に取り組むということは、授業を聴いたり、本を読んだりして学ぶこととは全く異質のものです。研究室で行う実際の作業の中心は、自らの手を動かして行う合成実験です。フラスコの中で有機分子が織りなす化学反応は自然そのものであり、それを相手にして、未知の事柄に対する「質問」を自由に、しかしできるだけ正確に設定する必要があります。どんな分子を作り、どんな機能を引き出したいのか。どんな反応を可能にしたいのか。それぞれの問いかけは、研究者一人一人の個性に直接結びついたものであり、それを定める際の切実さは自然科学研究の大きな魅力でもあります。そして、掲げた問いに答えを与えてゆくためには、問いかけ方に手違いはないかを実験化学的に検証し、そこで起こる事象を謙虚に捉え、次に何をすべきかを明らかにしてゆかなければなりません。その過程で浮かび上がる問題に対する答えは、どこかに書いてあるわけもなく、つぶさな観察を基に、一つ一つ解決してゆくしかありません。その時頼りになるのは、おそらく人に説明しようのない、自分だけの「勘」だと思うのです。そして、それを鍛えるのが最も難しい。有機合成化学では、実験を積み重ねることによって培われ、研ぎ澄まされてゆくものであり、「A person who understands nothing but chemistry does not even understand chemistry.」という言葉が示すように、やはり幅広い基礎知識と、豊かな経験によって育まれる人間としての力を土台とするものなのです。

化学はとても論理的な学問ですが、それに携わるのは他ならぬ不完全な人間であり、だからこそ研究者の姿勢と感性が色濃く映し取られ、独創的で魅力的な新しい化学に繋がり、そこからまた次なる課題が生まれてくるのです。皆さん一人一人にも、その担い手として無限の可能性があるのではないでしょうか。これまで存在しなかった分子を独自にデザイン、合成し、それから触媒機能を引き出すことで思ってもみなかったような化学反応が現実のものとなる。それは、世の中の物質生産を一変させる程の力を持つかもしれない。そんな有機反応化学のダイナミックな展開に興味のある人は、ぜひITbM棟の化学実験室をのぞいてみて下さい。浦口先生、大松先生、荒巻先生、そして皆さんの先輩達が、疑問、質問を受けとめてくれることと思います。教授室に来ますか?研究の夢に加えて、今世紀を担う知性の卵である皆さんが、研究室という場を最大限に活かして一人の自立した研究者、人間として成長し、多くの人々が困難を抱え戸惑う時、その先を照らし進むべき道を示すことができる真のエリートとして活躍できるように、どのような環境を整えてゆくべきか、話は尽きないかも知れません。

2016年3月 大井記

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